Cardician's Blog

映画鑑賞のようにマジックを楽しむ習慣を

効率的なトレーニング方法に関する考察

昨日↓の記事を投稿したところ、Twitterで読んでいただいた優しい方より、集中学習/分散学習というワードで切り込んだほうが良いかも。
とご教示いただいたので、それについて調べてみました。

cardician.hatenablog.com

 

例によってこの分野素人なので、解釈違いがあれば、ツッコミ大歓迎です。
工藤バイアスが気になる人は、直接、原著に当たられたい。 

◆集中学習とは

いわゆる一夜漬け的な学習のこと。
数時間ぶっ通しで学習する方法。

◆分散学習とは

適度な休憩を挟みながら、繰り返し学習を行う方法。
忘却曲線に合わせて学習しましょう!
 というのも、分散学習のことです。

◆それぞれの学習方法の比較

学校のお勉強や、試験勉強、暗記物などでよく出る話題なので、
ご存知の方も多いかと存じます。

宣言的記憶(↑の暗記とか)において、
集中学習は、短期記憶を形成するのには役に立ちますが、長期記憶の形成には役立たず、
長期記憶を形成するためには、分散学習で、コツコツと時間をかけて学習する必要があります。

これは、宣言的記憶だけではなく、
手続き記憶(≒運動性記憶)でも同じ傾向にあると言われています(詳細は次項)。

◆運動性記憶の短期記憶と長期記憶の違いについて

参考:http://www.riken.jp/pr/press/2011/20110615/

運動性記憶の短期記憶と長期記憶が保持されている脳の領域は、そもそも異なるらしいです。

短期記憶は、小脳皮質の神経細胞であるプルキンエ細胞に蓄積され、
長期記憶は、プルキンエ細胞の出力先である小脳核の神経細胞に蓄積されるとのこと。

そして、集中学習を行ったマウスと、分散学習を行ったマウスの、
小脳皮質に局所麻酔剤を投与したところ、
集中学習を行ったマウスは、学習内容を忘れてしまったが、
分散学習を行ったマウスは、学習内容を忘れなかったとのことです。

すなわち、

集中学習で形成される記憶は、小脳皮質にあり、それは、短期記憶。
分散学習で形成される記憶は、小脳皮質にはなく(=小脳核にある)、長期記憶。と確認された模様。

加えて、小脳皮質の機能を止めて学習をさせると、
短期記憶も長期記憶も形成されなかったとのことで、
短期記憶をすっ飛ばして長期記憶を作ろうとすることは無理。と判断できます。

参考:http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/publications/news/2010/rn201006.pdf

ということで、

一夜漬けで得られるものは短期記憶。
コツコツやれば、長期記憶が得られる。
お勉強も、運動も。

ということが、脳神経学からも証明されている模様です。

また、短期記憶から長期記憶になることを分散効果と呼ぶらしいのですが(←ざっくり)、
それは、小脳皮質にある記憶が、小脳核へ移動することにより、長期記憶となるとのこと。

※記憶が移動する。って凄い話ですよね。

参照した研究では、「記憶痕跡のシナプス間移動」と呼んでいますが、
これをもたらすのは、運動学習後の休憩時間に小脳皮質のプルキンエ細胞で作られる、
何らかのタンパク質が影響しているとのことです。

→これが判明すれば、記憶障害の病気の治療に役立つのでは。と期待されている。


少々小難しくなりましたが、重要なのは、

・集中学習 → 短期記憶
・分散学習 → 長期記憶
・短期記憶が長期記憶になるためには、"休憩中に発生する"記憶の移動が必要
 ※≒長期記憶のためには、休憩が必要。

ということです。

◆それぞれの学習方法が向いているスキルとは

さて、集中学習と分散学習という2種類の学習方法のうち、
分散学習が、長期記憶の形成に役立つ。ということはわかりましたが、
集中学習はもう不要なのか?というと、そうでも無いようです。

参考:https://www.lifehacker.jp/2018/06/to-get-good-at-something-practice-less-but-more-frequ.html
※ブログの援用で恐縮ですが、許して下さい。。。

学習対象となるスキルには、
離散的スキルと連続的スキルというものがあり、

集中学習は離散的スキルの習得に向いており、

分散学習は連続的スキルの習得に向いているそうです。

・離散的スキル (集中学習が向いている)
 ゴルフボールを打つ/野球ボールを打つ など、
 動作の始めと終わりが明確に定義できるもの。
 その動作単独を切り出すことができるもの。

・連続的スキル (分散学習が向いている)
 楽器の演奏、水泳、ダンス など、
 動作の始めと終わりが定義できないもの。
 
 ※ただし、バイオリンの持ち方や、特定の音の出し方、などは離散的スキルに分類できそう。


なんとなく、経験と照らし合わせても、
個別具体的な技の練習は、ぱらぱらと練習するよりも、まずは集中して習得しないと。。
というのはしっくり来るかと思います。

◆手品の場合

ここはマジシャン向けになりますが、
手品の場合、技法単体を切り取ることもできるので、そこは離散的スキルといえるでしょう。

しかし、手順となると、
技法と技法の間に挟まるサトルティや、ミスディレクション、ハンドリング等の要素が入ってくるので、
手順全体については、連続的スキルだと捉えることができそうです。

 

この当てはめが正しい。とした場合、

 

技法単体の練習は、集中学習により、いち早く習得を目指し、
技法がある程度習得できたら、手順全体を分散学習で定着させていく形が良い。

と言えそうです。

◆どれくらいの分散学習の期間で、長期記憶となるのか

理化学研究所の研究によると、

※参考:http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/publications/news/2010/rn201006.pdf

宣言的記憶(暗記など)の短期記憶が長期記憶となるためには、2〜3週間程度を要し、
運動性記憶の短期記憶は、数時間から数日で長期記憶となると報告されています。

難易度が高いスキルの習得に時間がかかるのは、
運動性記憶の短期記憶の形成に時間がかかっていると言えそうなので、
そこは集中学習で短期記憶を形成し、分散学習に移行するほうが良いでしょう。

 

ただし、一つ注意すべきことがある模様です。

 

◆運動性記憶の精緻な動きは、長期記憶にはならない

短期記憶されたすべての運動性記憶が、長期記憶になるわけではなく、
精緻な動きについては、長期記憶になる段階で抜け落ちやすいそうです。
※サルでの実験で判明している。

どういうことかというと、
ピアノを久しぶりに弾くとなった場合でも、
いきなり、過去のようにバリバリ弾けるわけではなく、
なんとなくは弾けるが、少しずつ勘を取り戻していく形になると思います。

手品の技法の場合でも、
久しぶりにやったら、できないわけではないけども、どことなくぎこちない。
という経験はあるのではないでしょうか?

論者の推察では、
精緻な動きまで長期記憶として、定型化させてしまうと、
外部環境の突発的な変化が起きたときに、対応ができないため、
大枠の動きは長期記憶で定型化させ、精緻な動きは短期記憶に任せ、
その場その場で柔軟に対応ができるようにしているのではないか。
ということです。

すなわち、

一度習得したテクニックっであったとしても、
定期的にトレーニングをしなければ、クオリティーが落ちてしまう。

ということですね。

◆運動性記憶に対する分散学習の時に、空けるべき間隔とは。

直接言及している論文を見つけられなかったので、いくつかの実験条件から援用します。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/50/9/50_631/_pdf
→30分〜1時間の間隔を開けて実験して効果あり。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/42/8/42_42-8_119/_pdf
→30分以上の休憩を挟んで、OKRの短時間の練習を繰り返すと、記憶痕跡の移動が数時間で発生した。
※OKR(optokinetic response:視機性眼球反応)

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25560382/
→15分以下の休憩よりも30分、60分の休憩が効率的に長期順応を形成する事を明らかにした。

ということで、

おおよそ30分から1時間の間隔を空けてトレーニングをするのが良さそうです。


◆◆◆◆◆まとめ◆◆◆◆◆

・運動性記憶についても、長期記憶の形成には分散学習が有効
 →週末に一気に5時間トレーニングするよりも、
  日々少しずつトレーニングしたほうが効率的。

・長期記憶の形成には、休憩中に発生する記憶の移動が必要なので、
 集中学習をしているだけでは、長期記憶にはならない。定着しない。

・離散的スキル(単一技法)の習得には、集中学習。
・連続的スキル(手順全体)の習熟には、分散学習。

・精緻な動きは長期記憶とならないので、クオリティーを保つためには、継続的なトレーニングが必要

・分散学習で空けるべき間隔は、30分〜1時間程度で効果はある模様。


ということで、手品の練習をより効率よくするために、当てはめると、、、


◆◆◆◆◆実務(手品練習)へのインプリケーション◆◆◆◆◆


新たな技法を習得しようと思ったときは、
まず、固まった時間を確保して、集中学習を行い、短期記憶の形成を図る。
意識的有能レベルになったら、分散学習としての日々のトレーニングに組み込み、長期記憶化を図る。

手順全体のトレーニングには分散学習が向いており
短時間のトレーニングを30分〜1時間程度の間隔を空けて行うと効率的

と言えそうです。

以上です。